保科洋、吹奏楽部・アマチュアバンドの指揮について語る!インタビュー動画

なぜ、今、保科洋の指揮法クリニックなのか?
「指揮者もコンクール」のサブタイトルの意味は?
悩めるスクールバンド・アマチュア吹奏楽団や管弦楽団の指揮者のみなさまへのメッセージです。

以下インタビュー概要です。
多少読みやすいように文章の補完や重複の削除、語尾の変更などを行っています。

 

何故、今回のクリニックは2日間なのでしょうか

 

保科:

昨年、初めて指揮法講習会をやったんですが、朝10時から初めて、夕方4時ぐらいという予定でやったのが5時ぐらいまでかかっちゃった。

それでも、やりたいことが全部できない。やり方の問題もあるんだけど、やっぱりそんなに簡単にいろんなことが全部伝えられるわけではないので。

指揮法といっても、基礎的なことから最終的には音楽をどう表現するか、という部分まで、いろんな要素があると思うんだけど、その全てを皆さんにお伝えしようと思うと、やっぱり1日では無理かな、と。

もうひとつは、今回のように2日間やるとみなさん一緒にお泊まりいただく方があるかと思うんで、実際に手をとって指導するというだけでなく、いろんな話の中で、指揮者はどうあるべきか、どう考えるべきか、ということをゆっくりお話する時間があった方がいいんではないか、ということで、今回は二日間、その間に懇親会を設けました。

だから指揮法の講習会そのものもだけど、講習会での話し合いみたいなことが大きなウエイトをしめるかな、という気はしてるんだけどね。

 

保科洋の指揮法クリニックはプロの指揮者になるためではない

 

保科:

長年、アマチュアのオーケストラとか吹奏楽団をいろいろ指導する機会があって、今回考えている一番大きな「指揮者とは」ということは、対象をはっきり(いうと)スクールバンド(吹奏楽部)の指導者*、ということで、プロの指揮者になるための講習会では決してない。

その違いは何かというと、プロの指揮者というのは非常にかぎられた練習時間の中で全部伝えなきゃいけない、っていう制約があるわけですね。これはもう世界中そうなんだけれども。

そうすると、当然バトンテクニックっていうものが非常に大きなウェイトを占めることになる。本当に短時間の間に、全部バトンテクニックで相手に何かを伝えなきゃいけない。

それと、少ない時間の中でアンサンブルを整えなきゃいけない、ということで、メカニック的なメリハリというか、指揮法の本当に基礎的なテクニックを網羅していないと、当然プロの指揮者にはなれない。

ですけど、スクールバンドの指揮者っていうのは、練習時間は多いわけですよ。毎日っていうか、半年間ずっと練習をするわけですから。その中で、プロの指揮者に要求されるようなバトンテクニックっていうのは、実はほとんど必要ないんです。

極端なことを言えば、日常の練習の中で、自分がやりたいことを子供たちに伝える、口でもなんでもいいから伝えたら、本番は指揮がなくたってできるくらい練習はしてあるわけで。

そうするとそういうスクールバンドの指揮者の指揮法っていうのはどうあるべきか、というのは私なりに(考えていて)、これは実際にやってみないと口ではとても説明できないんだけれども、そこが一番(プロの指揮者と)違うところだと思うんだよね。

 

指揮者は、自分自身をモニターできない演奏家

 

保科:

スクールバンドの指揮者っていうのはいろんな人がいると思うんだけど、中には音楽の先生じゃないけど、昔楽器をやってて、その流れでたとえば理科の先生が指揮をするとか、国語の先生が指揮をする、これはよくあるケースですね。

それから、スクールバンドでなくても、市民バンドみたいなところだと、色々あると思うけれど、中にはプレイヤーとしていろいろ経験してきたなかで指揮をしている人もいるわけです。

やっぱり、指揮者というのは一方的なことではなくて、当然プレイヤーがいて、プレイヤーはいつでも指揮を見て演奏しているわけですから、見ている側からいうと、演奏しやすい指揮と、演奏しにくい指揮っていうのは当然わかるわけですね。

ただ、指揮っていうのは、これはよく言われることで、指揮者も当然演奏家なんだけれども、唯一自分をモニターできない演奏家なんですよ。

普通演奏家っていうのは自分で音を出すわけだから、出した瞬間に自分の出した音がどうだったのか自分ですぐモニターできる。それが普通の演奏家なんだけれども。間違えたらすぐにわかるし。

でも指揮者は、自分がどういうふうに表現して、相手に伝えようとしているのか、というのは自分は当然思いをもってやっているんだろうけど、それが具体的に相手にどう伝わっているのか、ということはチェックできない。

ということで、今回の講習会も、実はそれが見えるようなシステムを使ってやろうと思っているんですけど、いずれにしても、指揮者っていうのは、唯一自分をモニターできない演奏家だということを自覚しないといけない。
そのためには、どこかで自分をモニターするチャンスを作らないといけないですね。

で、それはなかなか学校の先生は忙しいし、中には自分の指揮なんて見たくないという人もいっぱいいるんだけれども、もしうまくなろうと思ったら絶対見ないとうまくなれない。で、実は、見たら絶対うまくなるんです

という意味で、今回、指揮法の直接的なことではなくて、日常自分が指揮をマスターしていくのに何が必要かみたいなことを今回お伝えできるかな、と。

 

今回の指揮法クリニックで身につくことは?

 

保科:

何かを習得するためには絶対時間がいりますよね。その時間の間に、自分である程度努力しなければ、人が手助けしてくれるんじゃなくて、自分でマスターしよう、という意識がなきゃダメなんで。それは指揮も同じだと思うんです。

だから、2日間受講したから、次の日から指揮がうまくなるということはありえません。そうじゃなくて、どうあるべきか、という考え方とか、自分でマスターする方法みたいなことや、それを、どういうふうに積み重ねていったらうまくなるか、ということは、お伝えできます。これは、指揮法の講習会にかぎらず、楽器の講習会でも同じで、講習会を受けたから次の日からうまくなるなんてことはありえないわけだから。

ただ、そういうのを見て、自分の指揮を見るだけではなくて、人の指揮も見て、同じ素材、テキストを使って、いろんな人がやって、その違いを経験することによって、それ自体がとてもいい勉強になるんじゃないかと思います。

 

サブタイトルの「指揮者もコンクール」とは?

 

保科:

うーん(笑)まあ、今吹奏楽界は、良し悪しはともかく、コンクールが非常に大きなウェイトを占めている。ある意味加熱しているくらい。出るからにはいい成績をとりたい、というのはどこでも同じだと思うんだけれども。

当然、楽器を吹いているのは、コンクールの場合にはプレイヤー、生徒さんたちが多いわけですけれど。

じゃあ、生徒さんたちの力量だけでコンクールの評価が決まるかというと決してそうではなくて、当然、音楽をやっているわけですから、音楽的ないろんな説得力とか表現力とかをトータルしたものが成績として僕は残っていくと思う。

ということは、そのなかで、当然、指揮者も評価されているし、審査されているわけですよ。

というのは、やっぱり指揮っていうのは、視覚的にも、そのバンドの演奏会としての説得力ということからみても、実は非常に大きなウェイトを占めていて、指揮がうまいこと、指揮の表現力があるということによって、子供たちが演奏しているレベルをもっと効果的に見せることもあるし、逆に(指揮が原因で)マイナスに見せることもある。

その意味では、指揮というのは、当然だけれども、非常に責任が重い。

とくに、指揮者のもつウェイトの大きさは、コンクールでいうと、上の段階に行けばいくほど、ウェイトが重くなってきます。だから、指揮のテクニックっていうのは、音楽的なレベル、演奏のレベルが上がれば上がるほど、評価(の割合)は大きくなってきます。その意味で、「指揮者もコンクール」と。

もうひとつは、指揮者には二つの役割があって、アンサンブルを整えるという、音楽以前の、ピッチをそろえる、ハーモニーを揃える、バランスをとるというような、アンサンブルの基本的なことをまとめていくのも指揮者だし、そういうものを前提として、それが出来上がったときにどんなふうに音楽として表現していくか、というのも指揮者です。いいかえれば、トレーナーとしての指揮者と、音楽家・芸術家としての指揮者としての二つの役割を持っています。

プロの世界でいえば、トレーナーとしての役割よりも音楽的な表現力の方が当然ウェイトが高くなるわけだけれども、コンクールもまったく同じで、レベルが上がれば上がるほど、そちらの方がウェイトが大きくなってくる。

どこまで自分が目指すかにもよるわけだけれども、その意味でも「指揮者もコンクール」というか、指揮者の実力がコンクールの評価の中に入ってくるのはやむをえない、ということですね。

 

参加されるみなさまへ

 

保科:

指揮をするのは、つらいことでもなんでもなくて、すごく楽しいことで、自分がやろうとしていることが実を結ぶ結果が目の前にどんどん出てくるのを一回体験すると、やみつきになります。

どうせ音楽をやるからには楽しくやった方がいいと思うし、そのことが子供たちの音楽を育てるということにもかえっていくわけだから、指揮者自身が自分のレベルを上げることが実は自分が楽しめることでもあるし、子供たちを教育することでもあるし。ぜひそういうことを体験して欲しいと思いますね。

最初にいったけれども、スクールバンド、市民バンドも含めて、アマチュアの演奏団体というのは、プロと一番違うところは、ひとつは技術の差、これはやむをえないんだけれども、一番違うのは、実は練習量の違いなんですね。

その練習量の違いが、ただ単に足りない技術を補うのではなくて、その練習量を通して、それこそプロにはできない緻密な表現ができる、というのがアマチュアの醍醐味だと思うんです。

僕は長年アマチュアの指揮をしているけど、それがそんなに続くのは、やっぱりそれができる楽しさなんです。今でも僕はプロのバンドを振りたいとは思わないけど、アマチュアのバンドやオケでそういうことをできるところだったら喜んでやりたいな、と。

学校の先生やアマチュアバンド(オケ)の指導者は、それが一番できる立場かな、と。だから、練習量が多い利点を最大限活用するためにどうしたらいいか、ということだと思う。

それが、今回やろうとしていることのなかで、一番僕が伝えたいことです。

 

(注)*文中の「スクールバンドの指導者」とは、より広く「アマチュア演奏団体の指揮者」という文脈で使われており、スクールバンド(中学・高校の吹奏楽部)の指揮者のみを対象とした講習会ではありません。

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いかがでしたか?
どんなクリニックになるのか、私たちスタッフも楽しみです!

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